【KICS DOCUMENT.】職人が、作るのを嫌がる程のものづくりとは

【KICS DOCUMENT.】職人が、作るのを嫌がる程のものづくりとは

By 齊藤 大輔 投稿日: / 最終更新日:

先日ほんの少しだけご紹介致しました新ブランド、”KICS DOCUMENT./キクスドキュメント”。日本の細やかな職人技術を駆使し、非常に高い品質のシャツを作るブランドです。
しかし、「非常に高い品質」と言うのは、巷に溢れる至極曖昧な表現で、私は好きではありません。そこで今回は、KICS DOCUMENT.のシャツがどのように品質が高いのか、詳しく解説致します。(専門的でマニアックな話も出て来ますので、細かい蘊蓄に興味の無い方は読まない方が無難です…。笑)

さて、物好きの方々、参りましょうか。

KICS DOCUMENT./キクスドキュメント Pin OX Basic Shirt

KICS DOCUMENT.では、一般的なシャツと根本的に異なる縫製方法を採用している部分が多く、それらの積み重ねが着心地の良さ、見た目の美しさを作り出しております。

その中でも特に、

1.前振り袖
2.カーブヨーク
3.フラシ芯 

この3点に関してはご説明する必要がございます。  

まず、一般的なシャツと明らかに異なるのが1.の前振り袖。
通常人間は、腕を前方向に出す動作ばかりです。腕をわざわざ後ろに出すのは、リレーでバトンを受け取る時くらいではないでしょうか?笑
その前方向の可動域を広げる為に、袖を真横では無く前に出た形で作ってあるのです。お手持ちのシャツの脇の縫い合わせ部分をご覧頂くと分かりますが、一般的なシャツではこちらの写真のように身頃脇〜袖まで一直線に縫い合わせております。

これは、極端に言うと身体の真横に腕がぴったりと沿う形となります。
しかし、そもそも人間の腕は、身体に対してやや前に出ているのが自然な状態なのです。(力を抜いて立ってみると分かります。)その時点でやや無理のある形な訳ですね。

KICS DOCUMENT.のシャツでは、

腕の縫い線が前身頃の方に1.2cm程ずれた状態で縫い合わせられております。 これにより、自然と袖が前に出た形に仕上がります。

しかし、これを実現するには、身頃を縫ってから袖のパーツを再度縫い合わせるという行程が増え、非常に手間と技術が必要な縫製方法なのです。それゆえ、この仕様は「職人泣かせの技法」と言われます。もちろん、袖のカーブ自体も前がやや短く、後ろが長いという形状に微調整されております。


そして2.のカーブヨーク。
通常、一直線に横に縫われてしまう背中のヨーク部分ですが、 KICS DOCUMENT.のシャツでは、

肩の動きに合わせた曲線を描いております。こちらの作りも、NYでメンズテーラードを学んだデザイナーならではの発想です。(縫製難易度は高くなってしまいますが…。)
先程の前振り袖とこちらのカーブヨークが合わさり、肩〜腕の可動域が段違いに広くなり、身体にフィットしながらもストレスの無い着心地を実現しております。


そして最後に3.のフラシ芯。
シャツの襟が立つ為には、芯を入れて生地にコシを与える必要があります。 その方法には「接着芯」と「非接着芯」の2種類があるのですが、日本では、90%が接着芯を使用していると言われます。
接着芯は、生地に芯地を半永久的に接着剤を使用して接着してしまうものを指します。そうすることで、型崩れしにくく、お手入れが楽になるメリットがある反面、襟が硬い質感となる為に、生地本来の風合いが失われてしまうというデメリットがあります。
KICS DOCUMENT.において、非接着芯である通称フラシ芯を採用する理由はここにあります。

フラシ芯では、前述の接着芯に比べてアイロン掛けが簡単では無いというデメリットはありますが、その柔らかな風合いは接着芯のものでは得ることが出来ません。
そして首周りの柔らかな着心地も、比べ物にならないでしょう。フラシ芯は縫製が難しく、高い縫製技術が無いと実現出来ない仕様であり、生産効率も悪いものですが、 それでもこの仕様を採用するのは、より良いシャツを作りたいというデザイナーの強い意志が感じられます。
先程、「最後に」とは言ったものの、もう少しだけ、お伝えさせて下さい。(どんどん長くなり、本当に申し訳ございません…。m(__)m)
KICS DOCUMENT.のシャツでは、非常に丁寧な縫製も見て頂きたい所です。

脇の縫い合わせは細幅の巻き伏せ本縫い。裏を見ても表かと思うような美しい縫製で、着心地に影響してくる部分です。
そして、その緻密な縫製は、見た目に美しく、「仕立ての良いシャツだな」ということが一目で伝わる部分でもあります。

肩は細かいピッチでのダブルステッチ。丁寧に縫製されているのが伺えます。
そして前立ての一番下のボタンホールのみ横向きにしてある工夫を入れております。

こちらは、一番負荷の掛かる部分ですので、その負荷を逃がすという役割と、一番下と分かりやすくすることで、ボタンの掛け違いを防止する意味合いのあるディテールです。

そして更に一工夫。

裏に生地を当てて補強してあるのです。本当に細かい所まで手を抜かない、丁寧な仕事をしております。

こちらのオリジナルのボタンに至っては、

レーザー刻印をした後に、職人が手作業で一つ一つ墨を入れ、その後丁寧に拭き取るという作業を繰り返して作られております。 ボタン一つにそこまでするか?と、もはや狂気じみたものすら感じます。
生地も全て、デザイナーが理想の質感を求めて日本有数の生地屋に製作を依頼した完全なオリジナル。

KICS DOCUMENT.定番のBasic Shirtだけでも数種類の異なる生地でリリースされておりますので、お好みの生地のものをお選び頂けます。(実際どのような生地なのか画像で分かりにくいということがあれば、お気軽にお問い合わせ下さいませ。)  
私自身も糸や生地、縫製など、詳しく深堀りして追求してしまうオタク気質なのですが、 こちらのブランドのデザイナーからは、同じ様な雰囲気を感じました。(研究者と言った方が近いでしょうか?) 沢山語りましたが、百聞は一見に如かず。
実際に着てみて、フィットしているのに苦しく無い、その不思議な着心地による感動を体感頂きたいシャツです。

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