ビスポークに勝るとも劣らぬ高度な技術

こちらの作品では、PETROSOLAUMのハイエンドライン用の木型である「03 last」を用いて製作されております。
一般的なグッドイヤーウェルト製法とは異なり、機械では無く手作業によるハンドソーンウェルト製法(※注1)を採用しております。
また、アッパーの吊り込みにも機械を用いず、職人の技術の差が明確に現れる手吊り込み(※注2)によって作り上げられております。
アウトソールはレザーソールでヒドゥンチャネル(※注3)仕様で、フィドルバック(※注4)による妖艶な曲面と美しい光沢を放つ仕上がりです。
ビスポークでも目にするのは珍しいウッドペイス(※注5)を丁寧に打ち込んだ作り込みからも、細部まで全く手を抜かずに真摯に靴作りをしている姿勢が窺えます。
左右非対称でぐっとえぐる様な曲面が特徴的なヒールの形状ももちろん手作業によるもので、絞ったウエストから覗く左右それぞれからの見え方が美しくなる様に工夫されたものです。

※注1 ハンドソーンウェルト製法……機械を用いてアッパー、底、ウェルトを縫い付けるグッドイヤーウェルト製法とは異なり、松脂を引いた麻糸で手作業で縫い付ける製法。縫製を簡易で効率的にする為にグッドイヤーウェルト製法で用いられるリブテープを用いる代わりに底材に手作業で溝を作り、直接ウェルトに縫い付けます。硬いリブテープを使わないこと、そして5mm程もあるリブテープの高さを埋める為のコルクを大幅に減らすことが出来る為に、非常に軽く、ソールの返りの良さも全くの別物に仕上がります。メリットは非常に大きい反面、手間と技術力の問題で量産には向かず、基本的にはビスポークに用いられる贅沢な製法。

※注2 手吊り込み……アッパーを木型に吊り込む際に通常は機械で超スピードで行われるのに対し、こちらの作品は職人の手作業により行われております。目で見て必要な部分に必要なだけの負荷しか掛けずにラストに合わせて各所を成形することで美しいフォルムを生み出すことが出来ます。

※注3 ヒドゥンチャネル……レザーソールに革包丁で薄く切れ込みを入れ、起こした部分に溝を掘り出し縫いを掛けて最後に革を伏せて仕上げる技術。高級感のある非常に美しい見た目となることはもちろんですが、出し縫いのステッチを革が保護することで耐久性も向上します。

※注4 フィドルバック……ソールの土踏まず部分の中央に高さを持たせた作り。バイオリンの裏面に見られる形状を想起させる、流麗で美しいラインに仕上がります。

※注5 ウッドペイス……ソールに打ち込む木釘。その工程は機械化されておらず、手間暇を掛けて打ち込んだ証となる。

革本来の魅力を最大限に活かした素材

使用した素材は馬革で、コードバン層とその周りのスウェード調の粗野な部位が含まれたPETROSOLAUMオリジナルのものです。
日本の伝統的なタンナーでピット槽でフルベジタブルタンニン鞣しを施した馬尻革です。
オイルを含ませ美しい光沢を持つコードバン層とその周りのバット部分を意図的に使用することで一枚の革の中で素材感がグラデーション状に変化し、唯一無二な表情を持たせております。
そのコントラストをお愉しみいただく為の素材であり、こちらの革自体がデザインされたものです。
美しく作られた革からはその元となった命を意識することは多くありませんが、こちら部位による表情の移り変わりを感じられる素材からは、「皮」から「革」へ変わったことを意識させられ、その元となった命に感謝しより大切にしようという気持ちになります。

他では見ることの無い、独自の手法によるデザイン

前述の凄まじくハイエンドな製法、唯一無二な革に目を奪われてしまいますが、こちらの作品において飛び抜けたディテールはまだございます。
外羽根、履き口のアウトラインをご覧いただきますと、非常にすっきりとした印象を受けると思いますが、こちらにはステッチが存在しません。
袋縫いでステッチレスに仕上げている靴も巷にはございますが、こちらの作品では袋縫いでは無く、表革の一部を薄くスライスしてライニングに縫い合わせ、その上に被せることでステッチを隠すというPETROSOLAUMオリジナルの縫製テクニックによるものです。
こちらがモデル名の「Hidden Derby」の由来となっております。
袋縫いと比較してもシャープでミニマルな印象に仕上がるのが特徴です。
また、切りっぱなしの様に革の断面が見えることも特徴で、ベースの茶色が僅かに覗くことで、茶芯の魅力を存分にお愉しみいただけます。

※03LASTの作品には、ブランドオリジナルのレザーインソールが付属致します。薄手のソックスの際、着用に伴ってフィッティングが緩くなった際などにご活用くださいませ。